【読書1/5・第11回】△綿矢りさ「インストール」▼米澤穂信「氷菓」
どんどんいくよー
これは面白いですね!中国古典をモチーフにしたミステリー小説で、中国貴族の風俗が楽しめます。ミステリーファンでない人にはおすすめできます。
ミステリーファンが読むと、「このトリック何なんじゃオラ」って気持ちになるかもしれませんが、モチーフの良さでトントンくらいにならないかしら・・・。
私はミステリーファンではないので、もう少し風俗の描写を耽美的にしてほしかったなとちょっとだけ思います。少々事務的な印象を受けました。
梨木香歩の文章はなんて美しいのでしょうか。多分梨木香歩は詩を書いてもすごいはずです。話のプロットは、結構イカしたライフスタイルを持ったおばあちゃんと不登校の孫の交流物語です。ちょっとだけ、ちょっとだけなんですが、短いと感じました。児童書だったら多分もっと引き伸ばして、おばあさんからの学びをもっとわかりやすく書くんじゃないかと思います。この本は大人向けなので、その辺を引き伸ばさずばっさり終わることによって、余韻を出そうとしているのだと思いますが、私は物語が終わるのが名残惜しかったです。もっと浸っていたかったよう。家守綺譚のときはそうでもなかったんですが。そう思わせるくらいの魅力があるとも言えます。
・柴田よしき「RIKOー女神の永遠」
よくある男女共同参画社会@警察物です。「ストロベリーナイト」「凍える牙」と比較すると、この作品の主人公が最もリアルで、真実味があります。つまり、彼女は汚く、女々しく、ウジウジしており、何が一番大事なのか全くわかっていないということです。
余りにも現実っぽいので、逆に共感が難しい。彼女のように、本当に愛してくれている男を裏切って、自分を全く愛してくれないセフレを何人も作り、自分をレイプした相手ともセックスをして相手を屈服させるような女性、現実にいたら多分「自分で決めたことなんだから自分で責任取って強く進んでいけ」と思うし、文句を付ける筋合いもないでしょう。じゃあそれをフィクションでやったら、文句つけていい/つけないでいいのかって少々悩ましい小説です。主人公の素行が余りにも悪く、こちらを黙らせる力がある。主人公が余りにも間違っており、愛とは何かについて逆に考えさせてくるという点で、構造が「アヒルと鴨のコインロッカー」と似てます。結構胸糞です。
BEST1/5・綿矢りさ「インストール」
思いつきで手に取って読みました。今更感はありますが、高校生の時に読まなくてよかったと思いました。苦悩が重すぎて、当時読んだら嫌いになってたかもしれない。
「あっ、この人はマジで才能があるんだ・・・!」と思いました。こんなことを思うのは初めてです。小説を読んで、この人は文章力があるとか、描写がいいとか、設定がいいとか、そういう感想を持ったことはあります。しかし、「インストール」はそういう普遍的な感覚を超越しています。
文章力という言葉で表すのが憚られるような文章です。説明が上手いのではなく、リズム感が卓越しています。こんな句読点の使い方、体言止め、心情の入れ方、音楽的と言えばいいのでしょうか。圧倒的です。苦しいほど美しい。誰がこんな文章を書けるでしょう。設定は確かに平凡かもしれませんが、平凡な設定からこれだけの苦しみを書き起こしたのには驚きます。
彼女は他の誰にも真似ができない、輝くものを持っています。「インストール」には才能の輝きと共に、思春期の苦しみが編み込まれています。書くことの痛みがこちらにも伝わってきます。先輩作家が、文庫本の最後の解説で「苦しくてもあなたには才能があるから書かねばならない」と書いていました。本当にそう思います。
- 作者: 米澤穂信,上杉久代,清水厚
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2001/10/31
- メディア: 文庫
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これ登場人物を高校生じゃなく70代にして、古典部は老人会の古典サークルにしたら良い小説ですよ。元気な高齢者の小説は若者にも元気を与えますからね!
今まで何度か、高校生を描く小説における高校生らしさ・らしくなさについて、別の本のレビューで書いたことがあります。私はもう大人なので高校生は子供らしく描いてほしい方ですが、まだ私は若くもあるので、大人のノスタルジアを押し付けたような理想的な子供像にも反感を覚えます。そういう意味では、高校生を描いた小説にはかなりのリアルさ、自分の現実と近い雰囲気を求めていると思います。そうじゃないと感情移入できず、フィクションとして楽しむどころか、悪い意味での作り話にしか読めないのです。