なぜ彼女は処女膜で歌ったか

つまり、何故アシカは鹿ではないか

【読書1/5・第18回】△道尾秀介「月と蟹」▼京極夏彦「死ねばいいのに」

真梨幸子「アルテーミスの采配」

 AV業界というのは「沈められる」「落ちる」もので、「復讐の手段」であるという前提の上で、AV落としの都市伝説を膨らませて書いた、という感じ。都市伝説って大体面白いので、この小説も面白かった。でもAV女優が読んだら怒ると思う。

 

五十嵐貴久安政七年の大脱走」

 これを読む前に「利休をたずねよ」を読んで、台詞の無秩序にすごく腹が立っていたので、こちらは普通の歴史小説の台詞で安心した。
 突然、映画「大脱走」に突入してビビる。映画を見てからオマージュ作品として読むべき。題名と表紙以上にバカバカしい話だが、結構よくできていた。

 

松本清張ゼロの焦点

 突然疾走した夫を探して、妻が色々なところに聞きこみをしていたら、関係者が次から次へと殺されて、大変なことになる話(適当)。ちょっと世界が狭すぎて、限られた登場人物の中から無理矢理真犯人を絞り出している感じがする。でも文章は確かなので、読めてしまった。

 

BEST1/5・道尾秀介「月と蟹」

月と蟹

月と蟹

 

 うーん!これをBESTに選ばなきゃいけないのか!順番的に仕方ないか!

 ストレスが溜まりすぎた子供が、狂気を発症して幻覚を見たり、人を殺そうとしたり、我に返ってそれを止めようとしたりする話。その狂気を身体感覚でうまく説明したり、比喩や幻覚で意味付けしようとしたり、文章が上手です。

 私の好みにはちょっと暗すぎた。でもちゃんとしてました!ちゃんと面白かった!あとは好みの問題だと思います!

 

WORST1/5・京極夏彦「死ねばいいのに」 

文庫版 死ねばいいのに (講談社文庫)

文庫版 死ねばいいのに (講談社文庫)

 

  こういう小説ってほんとよくないと思うんですよ。京極夏彦みたいな著名な小説家が、こんな不用意な小説を発表していいのでしょうか。

 ある女性が死んだことについて、その女性に4回しか会ったことない謎男が、女性の関係者にインタビューして回る話です。で、その関係者が色々自分の置かれた環境に対して愚痴を言うのを聞いて、謎男が「死ねばいいのに」と言い放つ、という話。
 誰が喜ぶ本なのか。周囲の環境を受け入れられないけど受け入れる方法もその不満を解消する術もない、そのことに気付いてすらいない人々に対して、20代ぽっちの若者が「死ねばいいのに」と言い放っていく話を読んで、痛快とか、爽快とか、身をつまされるとか、そういう感じの小説なんでしょうか。良いじゃないの、問題抱えたまま不満なまま生きてたって。一々それを環境変えたり働きかけたりしなきゃいけないわけ?できる奴だけやっとけよ。これを読んで「本当その通り!私も頑張る!」みたいなことを思える人は非常に健康です。
 特に後半から説教じみてくる。大作家様の説教を聞く会。
 日本の小説って、虐待や犯罪にあっても「ひたむき」に「前向き」に生きてる人が普通で、PTSD人格障害を発症すると甘えだからって「改心」させられるじゃないですか。個人個人の痛みを比較して、「死んだあの子はもっと辛かったんだから、お前だって死ぬ気で頑張れよ」って説教することが普通にまかり通る。何で誰かと比較して叱咤激励されなければならないのか。この作者にメンタルの相談はしないことをお勧めします。