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なぜ彼女は処女膜で歌ったか

つまり、何故アシカは鹿ではないか

【読書1/5第3回】△安倍公房「箱男」▼北村薫「空飛ぶ馬」

今回の1/5は、BESTに選びたい小説と、WORSTに選びたい小説に二分化された。

面白かった順に書いていきます。

 

BEST1/5・安倍公房「箱男
箱男 (新潮文庫)

箱男 (新潮文庫)

 

 これは奇書です。

 2chのスレまとめを夜な夜な読んで、ししゃもオナニーだの太鼓の達人オナニーだの、人々の奇行とその背後にある心の動きを知るのが楽しい方には超おすすめです。
 「箱男」とは、「箱を被って生活するホームレス」の自伝風に書かれています。2chでスレ立てするなら、「箱被って街歩いてるけど質問ある?」でしょう。
 「箱を被って生活する」というのは魅力的です。現代社会でも、マスクを四六時中して生活している人がいますが、彼らは箱男予備軍と言ってよいでしょう。見られないことには、快感があります。誰だって他人の視線から隠れたいと思ったことがあると思います。他人の視線から隠れたいけど、他人のことは観察していたい。箱を被るというのは、その欲望を叶える手段の1つです。
  しかし快感があるからこそ、一度箱を被ってしまうと、その箱から抜け出すことが至難の業である。この感覚を共有できる方なら、この本を楽しんでもらえるでしょう。タブーを踏み越えてしまった箱男に対して、同情するはずです。
  この作品では、箱男という設定を楽しむ他にも、謎解きを楽しむこともできます。この本の後半は相当時系列・語り手がごちゃごちゃに書かれており、事実が一体何なのかがわかりにくくなっています。その意味では、この本は一般受けしないと思います。しかし、わざわざ難解に書かれているということは、作者が何かをそこに隠したということですので、それを考える楽しみがあります(とでも思わないと読んでられない)。
  特に、この「箱男」の自伝を書いているのは誰なのか、という点は、明かされているようで実は明かされていません。「この自伝が誰かに利用されているのではないか」という視点で読むこともできるし、利用されていないという視点で読むこともできます。
  細部まで読むのはかなり苦痛を感じます。細部まで読んだところで何か真実を突き止められるようにも作られていないので、自分の体力に合わせて大雑把に読むべき本だなと思います。
 この本、アニメ化したら絶対面白いと思います!枠はノイタミナ。あー、めっちゃアニメにしてほしい!!!!!!!観たい!!!!!!作画は「四畳半神話大系」的なの希望です!!!!!!
 
 
池澤夏樹「夏の朝の成層圏
 「箱男」がなければ、この小説をBESTにできたのに。残念です。「箱男」は一生に一度読んだ方がいいけど、読み返す気持ちにはならないのに対して、「夏の朝の成層圏」はなくても困らない、でも何度でも読み返したくなる小説です。
 あらすじは、「彼」が遭難して、無人島で暮らす。以上。その生活を見事な文章で綴りあげています。情景描写と心境語りのバランスが非常に良くて、するする入ってきて、共感を生みます。
 そして何より、詩的です。この作品を読んだことによって、ピタゴラスイッチ的に伊坂幸太郎の「重力ピエロ」の評価が下がりました。「重力ピエロ」は筋書きは面白くないけど、時々びっくりするほど詩的なことを言い出す、それが唯一良いところだと思ってました。しかし、「夏の朝の成層圏」を隣に置いたら陳腐に見えます。「重力ピエロ」は、台詞に詩を仕込んでくるので非常に違和感があったのですが、こちらの作品がそこのバランスがとてもいい(無人島なのでそもそも台詞がない)。
 非常に感動しました。美しい小説です。買います。
 
 
大沢在昌新宿鮫
 最初の舞台がホモサウナで、私は歓喜した!主人公の鮫島警部がまたホモ好きしそうなイイ男なんです!私は歓喜した!
 
 
 題名を見て、背表紙の「霊能者の祖母が残した予言通りに、インドから来た青年ハチと巡りあった私は、彼の最後の恋人になった。運命に導かれて出会い、別れの予感の中で過ごす二人だけの時間。求めあう魂の邂逅を描く愛の物語」というあらすじを読んで、「あっこれ私がイライラしそうな小説だ」と思いました。それで本編読んで本当にイライラしたから、逆に清々しい。
 なぜこれをWORSTにしないのかって聞かれると困っちゃうな。WORSTに選ぶ価値もないというか。WORSTにするとその理由を説明しなきゃいけないけど、この小説にその労力を割くのは馬鹿馬鹿しい。それくらい内容がない。
 筋書きが極めて共感しがたい。現実社会が舞台なのに、幽霊が当然いるものとして扱われていて、主人公は死んだ祖母としょっちゅう重要なことを話したり、一番の修羅場で、死んだ祖母が謎の霊力により主人公を助けたりするんです。何を伝えたいのかさっぱりわからない。
 「青年ハチかっこいいなー」って思えばいいんでしょうか。青年ハチみたいな人がタイプじゃない場合、この小説はどう楽しめばいいんでしょうか。
 
 
WORST1/5・北村薫「空飛ぶ馬」
空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

 

  「ハチ公の最後の恋人」がとても嫌いな小説だったので、どっちをWORSTにするか迷いました。こっちの方が話せることがたくさんあったので、こちらを選びましたが、この作品は読む人が読んだら楽しめるはずです。

 この小説は、円紫という頭のいい落語家が、日常に潜む謎を解いていくところを、平凡な女子大生である主人公の目から描いている作品。謎解きといえば殺人事件だけど、この作品ではもっと身近な謎が対象となっています。例えば「なぜ見たこともないはずの絵が夢の中に出てきたのか」というような。
 こうやってあらすじにすると面白そうなのですが、私には耐え難い不満があった。
 主人公の女子大生の設定が鼻につきます。落語家の円紫の行動に着目するわけですから、コントラストとして、主人公の女子大生は平凡に描かれます。それは理解できます。この作品でも主人公はあたかも平凡なように描かれているんです。もちろん一応はヒロインですから、「少々風変わり」でないと話になりませんし、ちょっとは変わってるんですが、彼女の核として平凡な心情や短絡的な思考の持ち主であるということが言えるでしょう。
 しかし、小物感を出そうとしたかと思うと、今度は作者の欲が出てくる。幼少期から江戸時代の黄表紙や洒落本を読んで育ち、落語家の追っかけをやっていて、西洋文学・日本文学からの引用を会話に挟み、焼き物についても一定の知識を持っている。で、突然「コーヒーはバロックって感じだけど、紅茶はロココって感じ」とか言い出す。こんな19歳がいるかよ。少々風変わりどころか、相当風変わりです。真にキャラ立ちしてるはずの落語家円紫よりも遥かに彼女の方がキャラ立ちしてるので、むしろ落語家が邪魔なレベル。
 こういう「一見平凡」な主人公って、作者の自己投影なんじゃないだろうか。非凡な形質を一見平凡に描き、読者から「この人は平凡じゃない、すごい人だ」と褒めてもらいたいんじゃないだろうか。「コーヒーはバロック」とかって、作者が自分で考えてることなんでしょ?
 何か痛いなあって思って読みながら冷めてしまった。これが大学教授なんだったら理解できる。でも女子大生じゃ、ただの都合のいい妄想じゃんって。
 この作品アニメ化したらどうかなと思いました。女子大生のビジュアルが超絶美少女だったら、相当変人だとしてもそれはむしろご褒美だし、キャラ立ちできない円紫のオロオロ感もアニメだとお約束ですし。ドラマでもいいかもしれない。とにかく映像にしたら、この主人公の心の中語りが減るからね・・・
 謎解きの部分もかなり無理があって、1/10の確率で起こるようなことは対象にしていない。1/1000000の確率で起こる超偶然が起こったということを、論理的に証明してくれる。例えば、ある絵に描かれた人に赤のボールペンで印を付けたら、それが切腹に見えて、子供がうなされた、とか。それは確かに、そういう超偶然が起これば辻褄は合うよ。それだったら私だってアロホモラで扉を開けられたよ、と思ってしまう。
 私は男の子的なドンパチ人が死ぬホモ小説が好きなので、この小説嫌いなのですが、これが好きな人も絶対にいます。文学が好きで有名な作品を読んでる人は、主人公と共感できるのではないでしょうか。純喫茶で読書するのが好きな女性とかどうでしょう。とても柔らかく、優しく、ノスタルジックな小説です。