なぜ彼女は処女膜で歌ったか

つまり、何故アシカは鹿ではないか

【読書1/5・第16回】△多和田葉子「雪の練習生」▼柚木麻子「あまからカルテット」

樋口毅宏「日本のセックス」

 作者の努力、やりたいことは伝わった。性にまつわるトラブルを、性描写ありできちんと丁寧に描きたかったんだと思う。そして本当に、スワッピングの文化と、それに伴って個人が巻き込まれるドラマをちゃんと描いている。
 しかし文章力がないのが残念。視点変更がありすぎて、何が本当に起こっているのかがわかりにくい。1つの文の中で、主語は第三者からの観察なのに、述語が主観みたいなのが多発している。言葉の誤用も目立つ。
 また不必要にエリート批判を入れてくる。「日本のセックス」みたいに前衛的な題名の小説を書く人が、今更使い古された東大卒批判を入れてるのは陳腐すぎないかなあ。
 文章には問題があるけど、物語は面白い。「なんてこった!」「マジで!?」って言いながら読んだ。

 

野沢尚魔笛

 新興宗教によるテロを、担当刑事、担当刑事と獄中婚姻関係にある服役囚、また真犯人であるところの警察官の3人を通して解決していく話。
 真犯人の動機、担当刑事との獄中婚姻関係に至った理由が全くわからないが、テーマが割と面白い。映画化すれば動機とかは適当でいいので、映画化すればいいと思う。

 

・首藤瓜於「脳男」

 「脳男」って言うくらいだからサイコサスペンスなんだろうな!と思っちゃうけど、別に至って普通の警察物。犯人が少し頭いいくらい。

 

BEST1/5・多和田葉子「雪の練習生」

雪の練習生

雪の練習生

 

  人間社会で「普通にクマらしく」ホッキョクグマが生活する話(意味不明)。それも、人間社会にやってきたホッキョクグマが、色々ドタバタ冒険して人間と仲良くなりました系の話ではなく、人間社会で暮らしているクマが、日常生活の中で色々自分自身のことについて考えたり、今後のことに悩んだりするだけの話。ただそれだけの話。何も起こりません!

 人間社会にクマを登場させると、何となく冒険して人間と和解させなきゃいけないような気分になる(「クマのパディントン」病)けど、この作品はそうではない。

 これは超大作。分厚いという意味ではなく、感動の濃度がとても高い。作者の想像力、思考力の高さにびっくりした。

 人間以外の動物の哲学的思考を、人間的になりすぎず、非人間的にもなりすぎず、ギリギリのバランスと曖昧さで描いている。作者は、自分以外の感覚を想像し、説明するのが上手で、一つ一つ説得力がある。

 あまり共感ができない部分も多いが、人間の思考でない以上それが当たり前。敢えて伝え残すように書いている感じがする。

 全体的に野生動物の思考らしく取り留めがないのだが、決して散らかることがなく、丁寧。イメージとしては安部公房の「箱男」みたいな内向的な感覚。

 

WORST1/5・柚木麻子「あまからカルテット」

あまからカルテット (文春文庫)

あまからカルテット (文春文庫)

 

 特に何も起こらない。

 女性四人の仲良しグループが、最初から最後まで仲良しのまま仲良しという話。
 多分ストーリーが小説みたいに情報量が多い媒体に向いていない。マンガ向きだと思う。小説は文字数が多いから、それだけディープなところに踏み込むように期待してしまうけど、この作品ではライトな部分をジュニアノベルみたいにふわふわ紹介するだけ。
 だから別に嫌いじゃないけど全然おもしろくなかった。